2016年11月07日

9月 蔵のまち、喜多方にちいさな秋を訪ねて


会津が誇る北の歴史商都、
蔵のまち、喜多方。

2016年9月某日

01雄国農園s.jpg09雄国農園s.jpg03雄国農園s.jpg
04雄国農園s.jpg05雄国農園s.jpg06雄国農園s.jpg07雄国農園s.jpg
12雄国沼s.jpg10雄国沼s.jpg13雄国沼から喜多方s.jpg

 近年、世界遺産でも話題の“産業遺産”をご存知だろうか。“産業遺産”とは、地域活性化の新しい資産として、日本が10年程前からその保全および活用に取り組んでいるプロジェクトだ。対象となる建物は幕末から戦前にかけての工場跡や炭鉱跡等が多い。会津盆地の北に位置する喜多方市もまた“登り窯”をはじめ、市内に点在する蔵座敷等の14の建物が国の“近代化産業遺産群”に選定されている。
 かつて米沢と会津城下を結ぶ米沢街道の宿場町として栄えた喜多方は、良質の米と豊かな水資源により酒や味噌、醤油等の醸造業が発展し多くの蔵が建てられた。外気温の影響を受けにくく耐火性に富む蔵は、やがて座敷蔵等の住居にも利用され、いつしか商人たちの富の象徴となった。喜多方では蔵を建てる事が一人前の証とされ、市内には今なお4,000棟もの蔵が軒を連ねている。季節は芸術の秋。今回の旅のテーマは会津エリアが誇る、もうひとつの産業遺産巡りだ。
 まずは、会津河東ICから車で約15分。雄国沼の近くにある「雄国農園 百日紅館(さるすべりかん)」で腹ごしらえ。ここは喜多方市街地を一望する眺望が評判の味処だ。
 標高約500m。店は長閑な田畑が続く一本道の先、会津盆地を見渡す獅子沢地区の高台にある。そこで私たちを待っていたのは、私たちの想像を超える壮大な絶景!遠く飯豊連峰を背景に波打つ稲穂が海のように横たわっている。その開放感に胸がすく。
 店の自慢は地元の蕎麦粉で毎朝手打ちする十割蕎麦。早速「五種そば」(1,150円・こづゆ付)と「あられ天ぶっかけそば」(1,000円)を注文。素晴らしい眺めとともにいただく蕎麦は、十割とは思えない滑らかな喉越し。広い敷地内にはポニーやヤギ、ウサギ小屋も見え、農園らしいのんびりとした雰囲気が漂う。伺えば、雪景色もまた格別とのこと。「雄国農園 百日紅館」は春夏秋冬、眺めもその味わいも、慌ただしい下界を忘れさせる喜多方の秘蔵スポットだ。
 帰りは店の方にすすめられ、そのまま「雄国沼」へ。次第に細くなる山道に不安を覚えながら進むこと約30分。神秘的な美しさをたたえた沼を見下ろす金沢峠に到着!
 約50万年前の火山活動によって誕生した雄国沼は、標高1,000mを越える高原に佇む湖沼のひとつ。ニッコウキスゲをはじめ、雄国沼湿原植物群落として天然記念物にも指定されている湿原には散策路も見え、夏の美しさを彷彿とさせてくれる。

14三津谷レンガ蔵群s.jpg15三津谷レンガ蔵群s.jpg16三津谷レンガ蔵群若菜家s.jpg
21三津谷レンガ蔵群若菜家s.jpg20三津谷レンガ蔵群若菜家s.jpg22三津谷レンガ蔵群若菜家s.jpg23三津谷レンガ蔵群赤れんがラーメンs.jpg

異国情緒漂う、三津谷煉瓦蔵群。
人々の誇りが護る登り窯の伝統技。

 続いて向かった「三津谷煉瓦蔵群」は、市街地郊外にある小集落。ここはヨーロッパの片田舎を思わせる独特の“赤煉瓦”の蔵の意匠で知られている。私邸である建物は今なお住民が居るが、現在は「若菜家」が有料(大人一人200円)で、内部を一部公開している。母屋の住人に声をかけると丁寧にも敷地内の蔵を案内してくださった。
 三津谷の蔵に使われる煉瓦はすべて近くの窯で焼かれた地元産。窓の形や軒下仕上げなど、蔵のデザインは家ごとに異なる。かつて農作業に使われたというひときわ大きな蔵は、2007(平成19)年、経済産業省認定の産業遺産に指定。階段箪笥を登った2階の広い座敷には美しい調度品や古道具、古陶類が静かな時を刻んでいた。
 現在、10代目だという若菜家は今も農家で、米や野菜、ぶどう等を販売している。敷地内には大正時代に建造された現役の味噌蔵もあり、自家栽培米で仕込んだ手作り味噌は、塩分控えめで旨みの強い美味。例年、注文をいただく常連さんも多いのだという。
 帰り際には奥様のご厚意で、お土産のぶどうをいただき連れも私も恐縮。ちなみに集落の一角には、同じ煉瓦蔵造の人気ラーメン店「赤れんが」もある。現地に向かう際の目安にしていただきたい。

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32三津谷煉瓦窯s.jpg33三津谷煉瓦窯s.jpg34三津谷煉瓦窯s.jpg37三津谷煉瓦窯s.jpg

 そこから目と鼻の先の岩月地区には、廃校となった大きな木造校舎もある。「岩月夢想館」と名付けらた建物は、現在は生涯学習施設になっているようだ。隣接するコミュニティーセンターの方にお願いすれば、校舎内も拝見できる。古びた匂いがどこか懐かしい内部は造りも当時のまま。童心に還る想い出の宝庫だ。
 産業遺産に認定された「三津谷の登り窯」は、そこからすぐ。良質の赤土と大量の薪が手に入るこの地では、明治から大正にかけて煉瓦が盛んに造られ、これが喜多方の蔵の建材として利用されたという。訪ねた日はあいにくの定休日(水曜日)だったが、人影を見つけお願いしてみたたところ、なんと見学がOKに!聞けば、年に一度(!)の窯入れの準備中だったらしい。
 幅約5.1m、奥行約18m。階段上に10段連なるこの登り窯は、日本で唯一、現在でも昔ながらの薪による煉瓦を焼成している貴重な遺構。雪国らしく、ここで造られる煉瓦は凍害防止のため一度素焼きした後、さらに施釉して二度焼きされる。若菜家で見てきたばかりの飴色を帯びたガラス質の煉瓦が頭をよぎる。聞けば若菜家は1890(明治23)年、この地に登り窯を開いた瓦職人の樋口市郎に出資し、独自の煉瓦焼成に尽力してきた家柄だという。
 窯は技術保存のため現在もボランティアや有志によって、毎年秋に火入れを行っている。この作業は、なんと一般人でも事前に申し込めば気軽に参加できる。興味のある方はぜひ、問い合わせを(詳細はコチラ)。
 作業の手を止めて説明してくださったスタッフの方に礼を申し上げ、探訪記念に“やっこぼうし”(500円)を購入。瓦を立てて焼成する際、倒れないよう瓦と瓦の間に据える親指程の土塊は、役目を終えた後、愛らしい顔が描かれ、文字通り受験生や年配者に“転ばない”縁起物の土人形として喜ばれているという。

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43瀧の湯s.jpg42瀧の湯s.jpg44瀧の湯s.jpg45瀧の湯s.jpg46瀧の湯s.jpg48瀧の湯s.jpg49瀧の湯s.jpg

初秋をまとう湯宿の清涼。
眺めと戯れる豊穣の季節の寛ぎ。

 慌ただしかった一日をそっと包む日暮れ。川にせり出した宿の足湯でのんびりと流れを見つめる湯上り。水面から吹き上げる風もどこか清涼な秋の香りだ。
 豊穣の季節を先取りしたメニューも加わった食膳に、今夜も迷いながら「廣木 泉川」の地酒をセレクト。吟味した和酒のマリアージュに酔いしれる。今日は川向こうの能舞台が内風呂からも望める風流な部屋だ。この余興を楽しまない手はない(笑)。
 ひと休みを挟んで向かった「天寧温泉」は、子供連れやグループでの利用にも最適な、広々とした間取りと鄙びた情緒が魅力の貸切風呂だ。大きくとられた窓からはライトアップされた川の景色が目前に広がる。浴室の明かりを落とし、暗闇に浮かび上がる幻想的な眺めをふたり占めする愉悦。これもまた、貸切ならではの贅沢だろう。
 地野菜によるカラフルな惣菜もお目見えした朝食ブッフェには、リクエストで復活したという「幻の喜多方ラーメン」も(!)。したり顔で嬉々とほおばる私に「これから喜多方でも食べるのに…」と、連れも苦笑(笑)。

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56長床s.jpg60長床資料館s.jpg61甲斐本家蔵座敷s.jpg62甲斐本家蔵座敷s.jpg66甲斐本家蔵座敷s.jpg68甲斐本家蔵座敷s.jpg
67甲斐本家蔵座敷s.jpg72甲斐本家蔵座敷s.jpg73甲斐本家蔵座敷s.jpg74甲斐本家蔵座敷s.jpg

圧倒的な存在感で時を刻む
大拝殿と蔵座敷の風格を訪ねて。

 会津から喜多方市街までは車で約40分。しかし、その前にぜひ訪ねておきたい場所がある。「新宮熊野神社」にある「長床(ながとこ)」だ。平安から鎌倉時代初期の建立と伝わる「長床」は、仕切りや建具のない寝殿造りの大拝殿で、国の重要文化財に指定されている。
 社務所で拝観料(大人一人300円)を支払い、まずは念願の建物をじっくりと見学。折から降り出した雨のせいか、拝殿は滴る緑に縁どられ厳かな風格をまとっている。傍らに佇む樹齢800年の大銀杏は、まさに聖地を守る番卒のようだ。境内の一角には宝物殿もあり、獅子に騎乗した“木造文殊菩薩騎獅像”など、見応えのある文化財が由緒ある寺の歴史を物語っていた。
 市街地に戻り向かった「甲斐家住宅」は、蔵のまち喜多方を象徴する必見スポット。大正時代に建てられた建物は壮麗な蔵座敷で知られ、築山のある庭園や美術品など、かつて酒造業や製糸業で財を成した当家の暮らしぶりがみてとれる。建物には今なお子孫の方が居住し、見学は一部のみで例年、期間限定。公開中は場内にボランティアガイドが常駐し、見どころを丁寧に解説してくれる。
 入口で入館料(大人一人400円)を支払い、順路に沿って内部を見学。中でも完成まで7年もの歳月を費やしたという51畳の蔵座敷は圧巻。四方柾の檜や紫檀、黒檀、屋久杉、鉄刀木(たがやさん)など、選りすぐりの銘木が惜しげもなく使われている。現在、土産物屋として営業している店蔵には、これまた一本の欅の大木を削り出して造られた珍しいらせん状の“吊り階段”が、いまなお堅牢な存在感を放っていた。

79山中煎餅本店s.jpg80山中煎餅本店s.jpg83安勝寺s.jpg76喜多方街中ふれあい通界隈s.jpg
85喜多方おたづき蔵通りs.jpg89馬車の駅s.jpg90蔵屋敷あづまさs.jpg92蔵屋敷あづまs.jpg
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ひとは街。街はひと。
喜び多き地で出会うもてなしの宝。

 ぶらり立ち寄った「山中煎餅本舗」では、七輪による煎餅の手焼き(500円・煎餅のお土産付)体験も満喫。程近くにある珍しい蔵造りの「安勝寺」は、大火で旧本堂が焼失した戒めから、火災に強い土蔵造りに建て替えられたものだという。喜多方では郵便局や信用金庫、公衆トイレに至るまで、蔵の意匠を生かした建築物を随所で見かける。まちの景観を守る人々の意識の高さに改めて感じ入る。
 観光蔵馬車の「馬車の駅」があるのは、明治中期頃建築の蔵が多く残る“おだづき通り”沿いだ。現在、残念ながら蔵馬車の営業は休止中。蔵座敷を改装した敷地内の店蔵の暖簾をくぐり地酒の品定めをしていると、ここでもまた気さくな店の方から声をかけられ、興味深いラーメン指南をいただく(笑)。
 道を挟んだ少し先にある食事処「蔵屋敷あづまさ」の一角には、無料で見学できる「うるし美術博物館」もある。土産処も併設された館内は、普段遣いの手頃な漆器から職人が手掛けた美術品まで並び、目の保養にもおすすめ。店は大正時代、福島一の大米穀商と言われた松崎家の蔵屋敷を改築した豪壮な造り。もちろん、地粉100%の手打ち蕎麦や田楽も絶品だ。
 景色に味わいに、喜多方の街あるきは、とにかく遊びどころに事欠かない。加えて訪ねた先々で受けた熱意あふれる人々の親切な接客と楽しい話談は、まさに“喜び多きまち”の実体験(笑)。会津人らしい、故郷への誇りと人情を感じる出会いだった。
 旅の帰り道、感傷的な秋の夕暮れに目を馳せれば、辺りはトンボたちが楽しげに群れ飛ぶ唱歌の世界。稲穂も黄金色の舞台を整え、まもなく里を染め上げる真打ちの登場を、頭を垂れて待っている(笑)。



◆番外編 《喜多方ラーメン紹介》

 日本三大ラーメンの一つに数えられる喜多方ラーメン。その特徴は太目の平打ちちぢれ多加水麺に、さっぱりした醤油味のスープだが、近年では多彩なスタイルの店も登場している。メニューにも小食な女性や子供にもうれしいミニラーメンにはじまり、“朝ラー”と称し、早朝からラーメンを提供する店もある。多彩なそのスタイルに、ぜひ自分好みのタイプを探していただきたい。参考までに、我々が今回、喜多方で訪ねた店をここにご紹介する。
↓喜多方老麺会食べ歩きガイド
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●あべ食堂 *朝ラー有
地元人もよく通う名店。とんこつや煮干しによる醤油ベースのこってりと濃厚なスープに喜多方らしい中太ちぢれ麺がよく絡む、昔ながらの中華そば(650円)。昼時や休日は行列必至。訪れる方は時間に余裕をもってどうぞ。
住所/福島県喜多方市緑町4506
TEL/0241-22-2004
営業時間/7:30〜15:00 ※スープがなくなり次第終了
定休日/水曜日(祝日の場合は営業)
駐車場/有
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●上海 
ラーメン店が軒を連ねるマーケット通りに位置。喜多方で二番目に古い老舗。中国でラーメンを学んだ初代女性店主が1948(昭和23)年に創業。以来、代々女性店主が独自の味作りにこだわっている。澄んだスープはコクがあり、チャーシューとの相性も抜群。写真は店のおすすめ、チャーシュー麺(800円)。
住所/福島県喜多方市字二丁目4650
TEL/0241-22-0563
営業時間/9:30〜16:00 ※12月〜3月は10:30〜15:00
定休日/木曜日
駐車場/有
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●塩川屋 *土日祝のみ朝ラー有
エゴマ豚の農家と米農家が共同経営する店。店の看板メニューは潮(しお)ラーメン(650円)。シジミのみでとったクリアなスープは、上品な塩味にシジミの旨味、ほのかな甘味が漂う奥深さ。チャーシューにはエゴマ豚を使用。平日の昼はラーメン注文の方にごはん1杯が無料(!)という嬉しいサービスも。ラーメンの他に丼物やメンチカツも人気。
住所/福島県喜多方市字1-4545
TEL/0241-24-2520
営業時間/11:00〜14:00 18:00〜22:00
定休日/月曜日(月曜日が祝日の際は営業、翌火曜日休み)
駐車場/有
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posted by aizuaruku at 13:23 | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする